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COME AND GET IT

最高ランクを取るのが難しい音ゲーはどれ?(その2)

目次

  1. 問題提起
  2. プレイヤーモデル ←イマココ
  3. 判定幅の時間単位
  4. 各機種のランク判定システム
  5. 計算方法と結果

2. プレイヤーモデル

 全機種の腕前が同じプレイヤーを考える

では具体的に考察を始めていきます。前章で述べた通り、機種によって仕様が様々に異なるため、横並びで比較を行うためには、逆にプレイヤー側は腕前が全機種で同一になるようなモデルを考えなくてはいけません。

「プレイヤーの腕前」には大きく分けて「クリア力」と「スコア力」の二つがあると考え、それぞれについて、どうすれば全機種で同一になるか考えていきます。

 

クリア要素は考慮しない

プレイヤーのクリア力を機種間で揃えるために、今回は最も簡単な方法を取ることにしました。それは、かなり乱暴ですが、「クリア要素は一切考えない」という方法です。つまり、下記の要素を排除して考えます。

  • 譜面の難しさ
  • 機種特有の入力の難しさ

これらを考慮しない理由は主に2つあります。

i) 数値化が難しい

1つは単純に、これらを横並びで客観的な数値に落とし込むことが困難だからです。IIDXの譜面はDDRの譜面の何倍難しいのか?それは単純に譜面の総ノート数では表せないはずです。GFのピッキングjubeatのタッチの何倍難しいのか?人間の複雑な動きを数値化することも非常に難しいです。

ii) クリア要素がランク判定に関与する機種もある

もう1つの理由は、一部の機種にはコンボ点やゲージ点があり、これらがランク判定に関わってくるからです(jubeatのシャッターボーナス等)。譜面の難しさや機種特有の入力の難しさを考慮すると、コンボやゲージの扱いが難しくなってしまいます。

したがって今回は、
 『プレイヤーはミスを一切せず、コンボ点とゲージ点は全て満点を取れる』
という場合について考えます。

入力タイミングの「精度」とは?

次に、スコア力を揃える方法を考えます。
それはすなわち、入力タイミングの精度を揃えることに他ならないと考えます。

では、ここで言う「精度」とはどのようなものでしょうか。
音ゲーの入力タイミングに関して、僕はこのように考えています。

『全てのノーツを寸分違わず完璧に同じタイミングで演奏できる人間はおらず、様々な要因により狙ったタイミングに対してがズレが生じ、その結果、プレーの中である程度タイミングがバラついてしまうはずだ』

要するに、機械でない限り誰だって大なり小なりFAST/SLOWを出しているはずだ、ということです。たとえEXCELLENTのリザルトであってもそうです。そのFAST/SLOWが全てPERFECTの範囲内に収まっているからゲーム上では見えないだけです。しかも、そのFAST/SLOWは1つ1つ、ズレ幅が違うはずです。0.001秒だけ遅れて叩いたノートもあれば、0.02秒ほど早く叩いてしまったノートもあるかもしれません。

つまり、この「1プレーの中で入力タイミングのバラツキの程度」こそが「精度」を表している、と考えます。バラツキの程度が小さいほど精度が高い、ということです。したがって、このバラツキの程度を揃えることが、プレイヤーのスコア力を揃えることに等しい、と考えます。

バラツキを正規分布で考える

では、そういったものであると考えたとき、入力タイミングはどのようにバラつくのでしょうか。結論から先に述べると、これは正規分布に従っていると考えます。

正規分布とは…

正規分布とは、平均値の付近に集積するようなデータの分布を表した連続的な変数に関する確率分布である。(中略)正規分布統計学や自然科学、社会科学の様々な場面で複雑な現象を簡単に表すモデルとして用いられている。たとえば実験における測定の誤差は正規分布に従って分布すると仮定され、不確かさの評価が計算されている。

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正規分布確率密度関数

正規分布 - Wikipediaより )

統計学ではお馴染みの分布ですが、逆にそうでない人にはピンと来ないかもしれません…。(僕自身、大学の講義でかじった程度なので、不正確な表現があるかもしれません)
詳しい式は省きますが、この正規分布は平均値を中心として左右対称に分布が広がり、下記の二つの値によって曲線の形が決まります。

平均μ
分布曲線の中央。値が変わるとグラフ全体が左右に動く
標準偏差σ
バラツキの程度を表す値。
値が大きいほどバラつきが大きい=グラフが平らに潰れる

この分布の「判定中心に対して何秒ズレたか」を横軸(確率変数)に取り、縦軸をそのタイミングで叩ける確率(回数)と見ると、音ゲーのタイミング精度に当てはめて考えることができます。下図のようにグラフとプレー画面と並べると、この関係がわかりやすいかもしれません。

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上のグラフでは、の順に入力タイミングの精度が良く、
または「プレイヤーが判定中心を掴めておらず、全体的にノートを引き付け気味で叩いている状態」と見ることができます。
 つまり、

平均μ
⇒ 判定の掴み具合(0に近いほど良い)
標準偏差σ
⇒ 入力タイミングの精度(小さいほど良い)

と言えるかと思います。

さて、「プレイヤーのスコア力を揃える」ということに話を戻すと、
判定の掴み具合に関しては、ズレた状態を想定しても有用な議論にならないと思うので、全て  μ=0 (完璧に掴めている状態)として揃えます。
そして、σの値も全機種で同じ値に揃えます。

この状態では、例えばIIDXとSDVXの最上位判定について、下図のようなことが起こります。

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上図の緑斜線部IIDXでもSDVXでもどちらも最上位判定に収まっていますが、IIDXのほうが判定が厳しいため、『青斜線部はSDVXではCRITICALが出るタイミングだが、IIDXではGREATになってしまう』、という機種間の差が生まれます。

このように、同じ入力タイミング精度でプレイできても、IIDXとSDVXでは「光る」割合が変わってきます。そして、ここに更に得点配分とランク判定の違いが加わり獲得ランクに差が生まれる…という話は前章で述べたとおりです。よって、この精度σをパラメータとして動かしていくことで、精度と各機種ランクの関係がわかり、「高ランクの取りやすさ」に序列をつけることができます。

たとえば、

σ=○○ でSDVXではAAAちょうどだけどIIDXではまだAA、
σ=□□ まで精度を高くするとIIDXもAAAに到達する
σ=●● では…

といったイメージです。


***

以上で、プレイヤーモデルの定義は終わりです。

さて、長々と説明してきましたが、「結局どういうこと?」と思われるかもしれないので、おさらいと、近いイメージの共有です。まず、プレイヤーモデルとして定義した条件は下記のとおりです。

  • クリア要素は一切考慮せず、ゲージ点・コンボ点は全て満点
  • 全ての機種で判定を完璧に掴んでいる(μ=0)
  • 全ての機種を同じ入力タイミング精度でプレーする(σは全機種で同じ)
  • 入力タイミング精度(σ)を振る

この状態を実際のプレーに置き換えると、『いろんな人が、全ての機種で判定を完璧に掴んだ状態で、超簡単な譜面をプレーする』という状況が近いかと思います。
わかりやすいリズムの曲に合わせて、その機種で一番やりやすい配置を4分間隔をずっと叩く… 例えばそういう譜面なら、どの機種でも個々人の精度ポテンシャルだけがプレーに反映されると思いますし、それをいろんな精度を持つ人がプレーすることで、

「Aさんはjubeatとリフレクだけ最高ランクを取ることができた」
「BさんはAさんに加えて、SDVXでも最高ランクを取ることができた」
「CさんはBさんに加えて、ダガッキでも最高ランクを取ることができた」

という具合に、高ランクの出しやすさを比較することができるかと思います。

(補足)正規分布とみなすことの妥当性

自分の中では「たぶんまあそうだろうな」という感覚はあるものの、正直言って、この当てはめが妥当かどうかをロジカルに説明しきる自信がなかったので、サンプルをとって簡単に確認をしてみました。

ギタドラは現在FAST/SLOWをズレた秒数まで表示してくれるので(「-0.033」 とか表示されるやつです)、この機能を利用して、試しにこの動画のタイミングのバラツキを調べてみました。

この秒数の分布を数え上げたところ、下記の水色のヒストグラムを得ることができました。

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これに対して適合度検定を行ったところ、『水色のヒストグラムは赤線の正規分布に従っている』と結論付けることができたので、音ゲーの入力タイミング分布を正規分布と見なすことは、まあ妥当と言えるのではないかな…と思います。(ちなみに適合度検定の詳細は省きますが、1標本KS検定(有意水準5%)を用いました)
それにしても、動画の方は見事な精度ですね。

 

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